本文へスキップ

コラム「またまた・鳴小小一碗茶」report

2017年6月15日

ますます、中国茶はわからなくなる

――茶名が変わる、増える、なくなる。混沌の時代へ


 歳をとったせいではあるまい。わかりにくくなることが、中国茶の世界でしばらく前から起きている。次第に、店頭などで見る目にも、それが見える形で明らかになってきつつある。
 たぶん、私だけではあるまい。これで、中国茶の日本での普及は、ますます遠のいていく感がある。

 30年以上前、中国茶には、緑茶もあるのだ、と知った。しばらくして、ジャスミン茶の原料となる緑茶も含めると、中国市場の中国茶の8割以上は緑茶だと知った。日本において、次第に形成されていた、「中国茶」=「烏龍茶」「鉄観音」のイメージと、中国における中国茶が飲まれている(生産されている)実態との違いを知ることになった。

 少し探れば探るほど、その種類=茶名の多さに、戸惑いを覚えた。覚えきれない数である。
 何をどうしてよいのか、手がかりさえない。お茶屋さんの店頭に行けば、20から30くらいの茶葉が並んでいる。
 その手がかりに少しでもなれば、と思って本にした。『中国茶雑学ノート』、そして『中国茶図鑑』と進んでいった。
 
 経験をつみ、少しは代表的銘茶、歴史ある銘茶なども、ある程度知るようになって、人にも勧めることができるようになってきたころ、変化がおき始めた。10年ほど前になるだろうか。
「改革開放」路線が、定着をはじめ、動き始めた頃、そのいくつかの変化を感じ始めた。

 一つは、お茶のメーカー、工場が増えたこと。
 歴史的な銘茶は、多くの地域では、国営工場一つで作られていた。それが、誰でもとはいえないが、自分で会社を作れるようになった。その流れは、農村地帯へも波及し、「野菜を作るよりは、お茶を作った方が、お金が入りそうだ」とばかり、地域で、お茶工場が増えることになった。
 同じ名前のお茶を、独立したいくつもの作り手がつくるようになった。
 
 それがもたらしたものが、二つ目の変化である。
 お茶が一つの基準、あるいは伝統的な作り方で製造されるものとは限らなくなったことである。
 作り方が、いくつにもなることは、味の極端に違う、同名のお茶が存在することになる。その中には、技術的な熟練度のない製造者もいるはずで、まずいお茶も増えてきた。
 ともかく、同名のお茶の中で、味が幅広くなり、その特徴を把握することも難しくなってきた。どれが本来の味か、わからなくなるものも出てきた。

 これと同じく三つ目の変化が出てきた。
「商標登録」が普及してきた。それを利用して、新興の、あるいは関係ない人たちが、歴史的な、あるいは知名度の高い銘茶の名前を、「商標登録」してしまうケースが出てきた。
 もともと作っていたメーカーは、例えば唐代からある銘茶の名前が使えなくなることになって、やむなく新しいお茶名をつけ、昔からのお茶を売らなければならないことになった。
 飲む方は、茶名を頼りに買うわけで、まったく違う味のお茶を買うことになったケースも出てきた。

 二つ目の変化は、四つ目の変化も生んだ。
 同じ地域、同じ製法で、いくつかのメーカーが作っても、傾向としては同じ味の範囲でつくれることが普通である。だが、新しいメーカーが、従来のメーカーとの差別化を図るために、新しい茶名をつけて、同じ味のお茶を売り始めたことだ。
 消費者にとっては、名前は違うが、味としては同じようなものが、たくさん増えて、どれを買って良いのか、選びにくくなる。メーカーは、売上増のため、勝ち組になるための戦略として、そんな動きをとったものもあった。
 結果、知らない茶名がたくさん増え、古くからの茶名は別として、とうてい覚えることなど困難なものになった。

 そして、五つ目の変化。4、5年前、ワインなどの産地呼称のような仕組みが本格化してきた、という話を聞いた。どうなるのかな、と様子を見ていたが、茶名は増える傾向にあるが、逆に数年で消えてしまった茶名もある。追跡をしていないので、正確ではないが、乱立しすぎたメーカーなどが、倒産した、あるいは業態変化をさせたなど、お茶を作らなくなったことが考えられる。

 そして、今回もう一つの変化を体験することになる。
 中国で、いくつかの売りの現場で、産地呼称定着の影響を目の当たりにすることになった。
 ひとつは、「蒙頂茶」である。この呼び方は、唐代以降のものであろう。この総称の中に、蒙頂山一体で作られる「蒙頂石花」「蒙頂甘露」「蒙頂黄芽」などの呼び名で、作り方の違うお茶が存在する。
 あるお茶屋さんで、かなり距離の離れたところで作られるお茶「青城雪芽」がないか、と聞いたら、「ある」という。でも、「名前が変わった」という。お茶名の産地が広がったので、このお茶も「蒙頂茶」の中に入り、「甘露」になった、という。

 これは、その場では確認できない。その人は、お茶を売るために、嘘をついているのかもしれない。あるいは、本当で、産地呼称の定着で、産地の範囲が包括的になり(広がり)、以前の茶名を変えることになったのかもしれない。
 真偽のほどは、調べなければわからない。が、たとえ騙されたにしても、「産地呼称」の定着化は、いろいろの形で現れはじめている。セールステクニックにも、使われるくらいなのかもしれない。

 ともかく、お茶名が増え、あるいは変化していっている。
 すべて覚えるなど、無理である。ますます、何を手掛かりに、中国茶の過半を占める中国緑茶にアプローチしていくか、見えない状態である。しばらく続くだろう。老人には、なお無理だ。

京都「齋(いつき)造酢店」 「花菱味ポン酢」の写真 今回の「いっぴん」は、「花菱味ポン酢」である。
 ポン酢は、スーパーでも棚にずらり並ぶほどメーカー、産地、種類が多くある。それぞれのご家庭が、自分の好みをお持ちのはずだ。だが、一度、これを試されるとよい。

 このポン酢は、京都の料理人から教えてもらったものである。料理人は、お酢にせよ、調味料は、そのまま使うことはない。必ず自分の味にするために、手を加える。整える。
 この料理人は、お酢の扱いには一家言を持っているが、その彼が、ほとんどのケース、このポン酢は、手を加える必要がない、と言って、教えてくれた。
 多様に使って、今まではずしたことはない、と言える。そのうえ、用途は広い。これかな?と思うものには、ピタリはまる。

 これからの季節、活躍の場は増える。もちろん、冬の鍋の季節には、消費量がもっと増える。
 京都「齋(いつき)造酢店」。老舗のお酢屋さんの、ポン酢である。
 以前は、一升瓶しか通販では買えなかったような気がするが、最近は360mlも買えるので、家庭では使いやすくなった。以下のアドレスから簡単に注文できる。
 http://www.hanabishiponzu.com

またまた・鳴小小一碗茶 目次一覧へ