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コラム「またまた・鳴小小一碗茶」report

2018年1月15日

私の香港ものがたり

――六安茶茎茶と四川の注目「鄧記」


2年ぶりの香港である。
私が、ある意味をお茶に対してもった初めての場所は、香港であった。レストランで出てくるお茶が、現地人は普洱茶であることの発見だった。
 もう35年ほど前のことになる。

香港への旅は、記憶が正しければ、2泊3日23,900円のツアーが発売されたことがきっかけだった。もちろん、航空運賃、ホテルも、朝食も、空港とホテルとの移動もついての値段だった。高級とはいかないが、中級のホテルであった。超格安ツアーの流行が、始まった時のことである。

今でも、最初に泊まったホテルは覚えている。銅鑼湾にある、Lee Gardenホテルだった。部屋も広く、泊まるには十分なものであった。というよりも、バックパッカー向きのホテルに比べたら、高級な領域に入るものだった。
その一帯は、’Lee Garden’のエリアであった。名を冠した劇場は、古いイギリスを意識した建物であった。
今は、ご存知の通り、ホテルは消え、綺麗なショッピングエリアとなり、Lee Gardenの名前が残されている。

それから、香港通いが始まった。途中からは数えることはしなくなったが、もう50回は、 ゆうに超えたであろう。
 最初の頃は、アジアのFinancial Centreとして、成長の勢いがすごかった時代。欧米人に混じり、日本人ビジネスマン・家族の駐在も、あの狭い土地に数万人をゆうに超えていたと思う。

そんな中、私は、香港にいくつかの目的で通いつめていた。
一つは、中華料理である。食べることである。
 通いつめるようになって、日本で中華料理はほとんど食べなくなった。
 地元の広東料理を始め、北京料理、上海料理、四川料理の区分けがあることも、この土地で学んだ。
香港でよく見る「潮州料理」は、広東料理の一角にあること。皆が憧れるフカヒレ、鮑の料理は、潮州料理であること。そして、この料理の最初と最後に、小さな急須、小さな杯で、「鉄観音」が出されることも知った。
普洱茶が常飲の香港で、ここだけは違うお茶が、違う道具で入れられ、出されることを知った。

もう一つの目的は、旧正月前のバーゲンだった。
当時の日本で値段が高かった欧米の品物が、普段でも街じたいが「免税地域」で安いうえに、クリスマス用バーゲンで安くなり、クリスマスが過ぎると旧正月前までカウントダウンのごとく、もっと安くなっていくバーゲンであった。
大きなビルには、クリスマスデコレーションが壁面一面に、競い合って美しく電光で飾られ、クリスマスを過ぎても、旧正月まで残しておくビルも多かった。
港に光を落とす風景を香港島側から、そして九龍側から眺める、あるいはスターフェリーの中から眺めるのも楽しかった。

そんなバーゲンで、ヘレンドやアウガルテンなど、まだ手元にある陶磁器を買うことができた。
私の陶磁器への興味は、ここからがスタートだったかもしれない。

四川料理は、当時の香港では、極論すると数軒しかなかった。香港人は、辛いものが苦手だった。
その中でのお気にいりレストランは、「南北楼」だった。日本の四川料理とは、違うものが主役だった。
前菜の「辣白菜(ラーパーサイ・白菜の酢づけ)」が抜群だった。辛くて、酸っぱくて、仲間は瓶詰めにしてもらい、日本にまで持ち帰っていた。

ちょうど、香港の外資系企業で働く、香港人のエリートビジネスマンが出てきた時代だった。
レストランで、欧米人の同僚たちと食事をしている彼らは、定番の普洱茶を飲まなくなっていた。まるで、エリートであることを誇るように、「白牡丹」や「壽眉」といった白茶を、意識して飲んでいた。

理由を聞いてみた。アメリカで「DINKS(Double Income No Kids)」が、エリートビジネスマン・ビジネスパーソンを象徴する言葉として使われ始めていた。
DINKSは、黒い飲み物を拒否した。コーヒー、コーラといったアメリカの象徴的な飲み物を避けるのが、彼らの存在の証のように実践されていた。
香港DINKSを目指す彼らは、黒い飲み物・普洱茶を避けた。それが、白茶を飲んでいた理由であった。

 香港の思い出を語ったら、キリがない。
今回の香港に行った目的は、香港でしか買えないお茶「六安茶」の「茎茶」を買うこと。香港で売られているお茶の中では、安いお茶だ。でも、おいしいお茶である。
そしておまけは、新しいレストランの発見だ。
四川料理のプライベート・キッチン「Yellow Door Kitchen」が店を閉めてから、香港の四川の楽しみがなくなった。
発見である。2年前にできたという湾仔にある「鄧記」。ここは、すごい。また行きたい。

上環の「源茂興記茶行」に行ってみた。20年前と同じく、歳をとったご主人は、言葉が通じないどうし、目で会話し、すぐに彼は、店で二番めに安い普洱茶の引出しを指さし、「これか?」というそぶりを見せた。覚えていてくれた。
 香港に、私の中国茶の原点があることを、思い出した。

叉焼包の写真 今回の「いっぴん」は、「叉焼包」。香港・上環の「聚點坊」で、「雪山叉焼包」の名前で、メニューにある。
香港の飲茶、点心のある店なら、必ずある「叉焼包」。どの店も、だいたいハズレはなく、そこそこおいしい。
 だが、その店の点心の中で、一番おいしいか、といわれると、必ず一位になることはない。たとえば、「蝦餃」といわれるエビ・プリプリの餃子などの方が、日本で、こんなにプリプリのものは出会えないので、たいてい一位の座になってしまう。
ここの「叉焼包」は、違う。今まで食べた叉焼包の中で、たぶん一番おいしいと思える。この店の蝦餃もかなりおいしいし、焼賣もおいしい。その中で、一番おいしいと感じさせる実力だ。
皮も、他の点心の店とちょっと違う。品格すら感じさせる、爽やかな一品である。
難点は、行列である。人気店である。並んでも、客の回転は良いので、思ったよりも待たないで済む。並んでも食べる価値はある。
並ぶのを避けたければ、お昼、夜の食事の時間帯を外すことである。
香港上環禧27號が、住所。電話は、2851-8088。予約は、たぶんとらない。
しばらくぶりに、エキサイティングな点心に出会えた。香港に行かれる機会があったら、おすすめである。

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