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コラム「続・鳴小小一碗茶」report

2013年7月1日

「ケーク・サレ」。試されているのは食べ手?

――ともに飲むお茶は、はたして何か……

「ケーク・サレ」の写真 こんなに移動が多い日々をおくることになるとは、子供のころには思ってもいなかった。
世界中、日本中を出張で移動している人に比べれば、とうてい少ないのだが、私が小さなころに想像していた私の人生よりは、ずっとたくさん移動している。

 手帳をめくってみると、今年も、大阪には講座があるので、すでに6回。京都へ2回。九州へ1回。中国へ1回。台湾へ1回。北海道へ1回。たいていが、週末を中心にした移動なので、集中した4月後半から5月にかけては、ほぼ休みなしの移動の月になってしまった。

 年の後半も、大阪へは6回、京都へ2回。九州へ1回。香港・中国へ1回。台湾へ1回。ヨーロッパへ1回と、けっこうスケジュールが入っている。
 よく「うらやましいですね」と、楽しい旅行のようにいわれるが、そうでもない移動も多い。私の場合、どこまでが仕事で、どこまでが遊び、ということがない。仕事として、疲れることも多い。

 でも、移動し、旅することは、より広く、多く、あるいは未知なる、「人に会うこと」、「文化に会うこと」、「食に会うこと」、「情報に会うこと」である。
 それが私にとって、楽しさ、充実感などにつながっている。
 これも、中国茶をやっていなければ、こうならなかったことである。

 この原稿は、函館に来て書き始めている。
 7月に、私のサロンのお茶会で使うお菓子、大阪の講座でお出しするお菓子を、試食するために来た。3年ほど前に、函館で、ボランティアでやっていた、町内会での中国茶のお話しの会で、イタリアン・ドルチェのパティシエに会った。
 そのパティシエに、是非、今月お出しするケーキを焼いてもらいたいと思い、その試食である。
「チッチョ パスティチョ」という店の大桐さん。オーナー・シェフ・パティシエである。お会いする前から、ここのケーキは、好きであった。
 イタリアン・ドルチェでは、大阪の「ラ ドルチェリア ディ アドリアーノ」のケーキも好きだが、大桐さんのケーキを知ってからは、すっかりファンになった。

 今年の企画の中で、洋菓子を使う機会は数回しかない。その中で、彼の生のケーキを使いたいが、運ぶことはできない。
 昨年、彼を訪ねた時に焼いて待っていてくれた、地元の新しい大豆「たまふくら」(この大豆は名品だ)の「ケーク・サレ」を思い出し、それを使ってみたいとお願いした。
 今回は、「たまふくら」は使わずに、わりにオーソドックスなタイプでしあげてもらうようにお願いした。私の好みで、多少しっとり感のある感じで、と勝手なことばかりをお願いし、それに応えてくれた。
 彼の店のメニューの中には、「ケーク・サレ」はない。試食は、パーフェクトな出来であった。

「ケーク・サレ」は、文字どおり「塩ケーキ」である。砂糖は使わないのが基本。単純なケーキだけに、作り手の腕が現れる。本番の作品、届くのが楽しみである。皆さんが食べて、喜んでもらえるかどうか、それも楽しみである。

 単純で、基本的な味だけに、食べる側の好み、性格も感じ取りやすい。どのように反応するか、試されているのは、食べ手かもしれない。

 この「ケーク・サレ」を選んだのは、甘くない食べ物だからである。お茶とは喧嘩をしない。
 どのようなお茶をあわせようか。紅茶にしようと、前から思っていただが、試食をしてみて、ちょっと冒険をしたくなった。月並みではつまらない。私ももう少し、お茶選びに苦労しなければ、大桐さんに申し訳ない。
 明日からスタートするが、まだ決まっていない。意外なお茶にしたい。出席した人のみが知る取り合わせ。私の秘策。
 これを体験できるのも、「お茶会」へ出席した人の幸せになるように。

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