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コラム「続・鳴小小一碗茶」report

2013年9月1日

この夏は、このお茶で凌いだ

――「捨てるお茶」こそが、救ってくれるお茶

「文山包種茶」「六安茶」「正山小種」の「茎茶」の写真 9月になった。
 本来なら「終わりゆく夏」と書きたいところだが、今年はそういきそうもない予感がする。それだけ暑さが厳しかった、長かった。そんな今年の夏の思い出のお茶は、と問うてみた。

 なにげない、いつもどおりのお茶。「茎茶」である。
 焙煎しているお茶だから、日本の「ほうじ茶」や「麦茶」のように、清涼感があり、これをガブガブ飲んでも、冷たいものを飲みすぎて、体調を崩すこともなく、「いい感じ」で過ごせた。

 焙煎しているお茶は、武夷岩茶や台湾の鉄観音が、すぐ頭に浮かぶが、私の一押しは、「茎茶」である。中国での呼び名は、おおむね「茶枝」。
 製造で、余分な茎を最後に折って、その「捨てる茎」こそが、おいしいお茶である。

 台湾に行ったときに、「林華泰茶行」の入口を入ってすぐ左に、巨大な筒の茶缶があり、蓋には大きく「茶枝」と値段が書かれている。たいていは、一つが「凍頂烏龍茶」、もう一つは「文山包種茶」か「高山烏龍茶」である。
 安い。ともかく安い。このお茶屋さんの中で、一番安いお茶かもしれない。一斤(台湾の一斤は600g)で、300円~400円程度。しかも、軽いお茶なので、大変な量になる。一斤買ったら、かなりどころか、半年以上は精力的に飲んでも、飲みきれない感じである。

「茶枝」は、焦げた味がするお茶ばかりではない。同じ焙煎してあっても、「正山小種」や「鳳凰単そう(木へんに叢)」の「茶枝」は、本体のお茶とほぼ同じ味、香りがする。そのうえに、甘さ(旨さ)が加わる。申し分ない、味、香りで、本体とは別の価値を持つが、残念ながらこれらは「売り物」ではないのが、ほとんどである。

 茎茶からは、少しはずれるが、紅茶、緑茶の粉茶もおいしい。ヨーロッパ系の紅茶の粉茶は、「dust」で呼ばれ、工場などに直結したショップで買ったことがあったが、おいしかった。安かった。
 中国茶の代表、「西湖龍井」の粉茶は、この頃では製茶シーズンになると、産地の杭州の茶屋さんの店頭にも並ぶようになった。
 以前は、茶農家で分けてもらうような感じだったが、買う人が増えたのでそうしているのだろう。
 お茶屋さんの店頭に並んでも、本体とは比べることもできないほど安い。
 等級があるわけではないのに、大きな問屋さんなどは数種類のランクの粉茶がある。経験的にいえば、高い(といっても安い龍井茶を買うよりはずっと安い)お茶の方がおいしい気がする。
 かなり細かな粉も混じるので、いれる時は、お茶パックを買ってきて、それに入れて抽出すると楽である。

 そして、以前からも、現在も、一番のお気に入り「茎茶」は、「六安茶」の「茶枝」である。ふつうにはあまり見ないが、香港の「英記茶荘」には以前からあるので、香港に行った時に買う。
 英記茶荘が、独自に焙煎するのかどうかわからないが、安徽省六安で作られるお茶でありながら、遠くの香港でしか見ることはない。

 蓋碗で丁寧にいれれば、へたな銘茶よりもずっと品と奥行きのあるお茶になる。焙煎と甘さ、そして口の中での清涼感は、思わず「おいしい」とうならせる。

 ポットで、ラフにいれ、ガブガブ飲むのも、また一層夏の暑さを癒してくれた。
 一度機会があれば、お試しあれ。
 また、冬は、この手の焙煎したお茶は、身体を温めてくれる。甘さが、温もりを倍加させてくれる。寒い冬にも、これらのお茶がまた思い出される。
 そんな冬への前触れの、秋がそろそろ恋しい。

 (写真注)茶葉は、上から時計回りで、「文山包種茶」「六安茶」「正山小種」の「茎茶」

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