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コラム「続・鳴小小一碗茶」report

2014年4月15日

美しい茶名、魅力ある茶名@

――「砂漠をラクダの背にゆられ…」、お茶はヨーロッパへ

サロン風景の写真「茶名で感動のお茶」がある。「思いを膨らませるお茶」がある。
 名前が与えるイメージが、ストーリーや情景などを膨らませ、味、香りを一層豊かにしてくれる、楽しませてくれる茶名がある。
 中国茶と付き合ってきて、印象に残るものをいくつかあげてみる。

「Russian Caravan Tea」。

 さっそく中国茶ではないようなお茶だが、このお茶のパッケージ(缶)には、以前は「Pure Chinese Black Tea」(100%中国紅茶)と書かれていた。現在の商品説明では、中国産で、「祁門紅茶」と「烏龍茶」のブレンドと書かれている。
 イギリスの紅茶屋さん「Fortnum & Mason」で売られているお茶である。以前は、おなじみのグリーンの缶に入っていた。日本では売られていなかったが、イギリスの店では買うことができた。現在では、Fortnum & Masonのインターネット通販サイトで、バッケージも変わって、売られている。

 文字通り、中国からロシアへキャラバンで運ばれてきたお茶の意味である。
 中国からヨーロッパに向かったお茶は、普通に説明されるように、古くはインド洋を抜け、喜望峰を回って、海路ヨーロッパに入った。福建の厦門、泉州、あるいは香港から船出していった。
 そのため、英語のteaやフランス語のtheは、中国語「cha」の発音ではなく、お茶が船出した福建の方言の音「タ」から変化したと言われる。

 できるだけ早くお茶を中国からヨーロッパまで運びたい。そんな思いから、「Tea clipper」と言われた、お茶を運ぶ高速帆船が作られるようになる。しかし、それもスエズ運河が間もなく開通し、その短い役割を終える。
 最後のTea clipperと言われる「Cutty Sark」は、スコッチウイスキーにその名を残している。が、それをお茶の運搬の一時代を築いたものであることを、知る人は少ない。

 ヨーロッパの中でも、「cha」に由来する「c」から始まる発音をする国がある。ルーマニア、セルビア、ギリシャ、トルコなどである。ヨーロッパ大陸の一番西、南に位置するポルトガルは、周りの国々はすべて「t」から始まる言葉だが、なぜか「cha」である。

 中国のお茶のヨーロッパへのもう一つのルート、シルクロードあるいはティーロードをとおり、ロシアなどを経由して、陸路ヨーロッパに運ばれた道があった。それで、福建の方言ではなく、中国語「cha」が、いくつかのところで使われると思われる。

 沢木耕太郎さんは、名著『深夜特急』の中で、ユーラシア大陸の東、香港、マカオから西へ向かってバスを乗り継ぎながら、陸路、ヨーロッパ大陸の西を目指す旅を描いている。
 その旅を、終わらせる決意をするシーンがある。東から西に広大な大陸を移動し、一番西、その国の一番南に近い岬で「この旅を終わりにしよう」と決意する。それはポルトガルである。
「茶」が、古く中国を船出したところから旅を始め、そして「cha」という発音が行きついたところで旅を終えることにした偶然。
「ロシアのキャラバン」が運んだ言葉と、奇しくも同じ発音のが行きついたところで、彼は長い旅を終えることを決意した。

 ポルトガルの北部ポルトから川を上ったワインの産地「Duoro」。数年前、そこでのワイナリーツアーの昼食で、ガイドの女性が数か国語を駆使しながら、「紅茶」の話しを始めた。
 世界中で紅茶は広く飲まれているが、「それは、カタリーナが、ポルトガルからイギリスに紅茶を持っていったからだ」と多少自慢げに話していた。

 最初は、「カタリーナって誰?」って感じだったが、話している文脈からするとポルトガル王女「キャサリン」である。英語では「キャサリン」のはずだが、彼女は英語で話す時も、ポルトガルでの王女の呼び名、発音、「カタリーナ」を使っていた。
 英語圏、フランス語圏などの人たちが混じっているので、「tea」や「the」などの音が聞こえる。彼女にポルトガル語の「cha」の由来を教えてあげたら、喜んでいた。たぶん、それから後、説明の中に「cha」の話しも登場しているだろう。
 
 船、とくに高速帆船の「Tea Clipper」。その響きから、お茶が運ばれていったシーンが目に浮かび、ロマンを感じる。
 同じように、陸路のお茶は、キャラバンでヨーロッパへ運ばれていった。馬かラクダかわからないが、隊商が山を越え、砂漠を横切り、中国からヨーロッパへ。
絵、情景、シーンが目に浮かぶ。
 砂漠の中を、ラクダの背に揺られ、「月の砂漠をはるばると…」とバックに音まで流れ、海路とは違った優雅なロマンが、感じられる。実際は過酷な旅であったろうが。

「Russian Caravan Tea」。
 こんなことを思いながら、飲むお茶であってもよい。
 絵になるお茶である。
 新しいブレンドになってからは飲んだことはないが、以前の中国紅茶だけのものは、軽く飲めておいしかった。
 ――――つづく。

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