2014年5月1日
「茶名で感動のお茶」がある。「思いを膨らませるお茶」がある。その「続き」である。
いくら「茶名」が魅力的であっても、そのお茶じたいが、まずければ、決して「魅力的」なお茶にはならない。
次にあげるお茶は、「名前」だけではなく、お茶じしんもその名と同じくらい「魅力」あるお茶だ。
思いあたるお茶第二弾は、中国茶の長い歴史の中では、新しいお茶である。偶然だが、ともに「雪」の字がつくお茶だ。
「雪青」。
まず名前の色が美しい。「雪」の白。そして「青」だが、お茶の領域ではどちらかというと「緑」を連想させる使い方の「青」である。
山東省日照のお茶だ。
中国建国後、「南茶北引」(南のお茶を北で作る)という政策がとられ、それまで北限を理由にお茶が作られなかった地域で、お茶を作る努力がなされ、その成功したケースの産物である。
名前の由来は、「雪がたくさん降った冬、春を迎えてもよいお茶はとれないだろう、と半ばあきらめていた時、出てきた芽、葉で作ったお茶が、とてもおいしいお茶になった」ので、この名前をつけたと伝えられる。
中国語での茶名の発音を聞いても、きれいな響きである。日本語としても、漢字の表記を見ただけで、色がきれいに目に入ってくるようだ。
お茶じたいも、日本茶にも共通する味、香りがあり、この名に恥じない「淡雪の中の緑」を連想させる品のある味である。
「飄雪」。
数年前にこの名前を見た時、「何てきれいな名前なんだ」、と茶葉も見ず、もちろんお茶も飲む前に感心したのを覚えている。
そして、茶葉を見て、このお茶が「茉莉花茶」(ジャスミン茶)であることを知り、ぴったりのネーミングにまた驚いた。
私は、ほとんどのジャスミン茶が好きではないし、飲むために買う場合でも、決まったお茶屋さんものしか買わない。買うものは、おいしいものだが、続けて飲むと、飽きてしまう。
だからこのお茶も、味、香りはあまり期待しなかった。ネーミングの良さだけのお茶だろう、と思った。
四川省産と聞いて、昔飲んだ四川省産のジャスミン茶がまずかったことも思い出した。名前は魅力的でも、味においては絶望的に思えた。
乾燥したジャスミンの花びらも、けっこうたくさん入っている。安く、まずい、場合によっては農薬の味すら感じられるジャスミン茶と、同じようだとイヤだな、と思った。
ただ、茶葉の方は白毫も多く見られ、緑の色も少し黒ずんだ色で、小さめの良い茶葉が使われている。花茶でなければ十分においしいように思えたが、こんな良い茶葉をジャスミン茶が使うはずがない、とまったく期待しなかった。
ところが、一味飲んで驚いた。挙げてきたすべてのマイナス要素が、いっぺんい吹き飛んだ。申し訳ない、誤解だった、とすら言いたい、平身低頭、謝らなければならないほどの気持ちになった。
「おいしい」。お茶とジャスミンの香り、味のバランスもよい。香りも、上品で長続きする。
口に入った瞬間、一陣の風がさっと吹き、そこに透明感をもった香りが、清いお茶の味、香りとともに口の中に広がる。そして、しばらくの間、バランスがよいまま、清らかに、すがすがしく口の中に残り続ける。
「飄」は、中国語の辞書では、「つむじ風」の意味。さっと、地を通り抜ける風の中を指す、と「書」の中国人の大家から聞いた。雪が風ととともに、花が散る、舞うように通り過ぎる。
茶名の美しさ、味、香りとのマッチング、そしておいしさ。ネーミングとしては、私の中では「中国茶で一番」と今、思っている。
雪がつく茶名には、他にも魅力的な茶名がある。「雪水雲緑」(浙江省桐廬)もその一つにあがる。
――――また、つづく。