2014年5月15日
「茶名で感動のお茶」がある。「思いを膨らませるお茶」がある。その三回目である。
地名が関係して、美しい茶名、そしておいしいお茶もある。
「南京雨花茶」
江蘇省、南京にある「雨花台」が、茶名の由来である。「雨花台」で生産されるのではなく、古くからの景勝地、というよりは丘の名称がつけられた。私は行ったことがないので、名前と実態がどのくらい違うかわからないが、茶名からは美しい情景が感じられる。
雨の中に咲く花――。どのような情景がふさわしいであろうか。ドラマの一シーンになりそうな、あるいは、小説のストーリーになりそうである。
お茶は、白毫が少し混じるくらいの、若干曲がった小さな茶葉が、南京雨花茶の中でもおいしいお茶だ。緑は、少し黒ずむくらいの緑がよい。
キレがよいタイプのお茶ではなく、少し鈍く淀みながらも、清廉さを失わず、丸く、やさしく香るお茶である。
雨にたたずむ麗しい人を連想できると、お茶のおいしさは増し、美しいお茶に変身する。
飲み手は、その時、もう一人のドラマの主人公になるような気分である。
「峨眉竹葉青」
四川省峨眉山も、残念ながら行ったことはない。中国で有数の景勝地である。
中国仏教四大名山の一つで、古くからの聖地でもある。
竹の葉、そして「青」は「緑」に通じる意味で使われている。
鋭い葉。そう表現されるように、この茶葉は芽が開かないうちに摘まれ、その形状から竹の葉に形容された。
仏教の聖地と、竹。そしてその凛とした葉。
お茶も限りなく切れのよい、凛とした味が持ち味のお茶である。
ガラスのコップに茶葉を入れ、お湯を注ぐと、茶葉は水中上部に、凛として茶柱状態できれいに並ぶ。
煎の最初の方は、出来立ては特に、蒼さを感じる。春のエネルギーが力強く表現されているようだ。市場にも、中国緑茶の中でも早く登場する。3月初めである。新茶のシーズンの幕開けを知らせてくれる。
「華頂雲霧」
「華頂」は、天台宗の総本山、天台山の主峰「華頂山」で作られたことから、この名がつけられた。もう少し広い範囲の別称だと「天台雲霧(茶)」で呼ばれる。浙江省のお茶である。
華頂は、唐代以前にお茶の生産があったとされ、20年ほど前、その当時の茶木が見つかった、といって話題になった。その後何も音沙汰がないので、その茶木は違っていたのかもしれない。でも、古い茶区であることには違いない。
「華頂」は、名前としては華やかな感じだが、霊場・天台山にあるとなると、それに加え少し重厚な響きを感じる。
天台宗の総本山にかかる雲と霧。なんとなく、霊験あらたかな感じがする。あるいは、水墨画の世界を感じさせる。
お茶の味、香りは、最近少し変わってきたような気がする。以前は、スモーキーな緑茶で、ちょっと日本人の趣向からすると、苦手な範疇に入りそうなお茶だった。
そのスモーキーさが、重厚さ、鈍さゆえの雰囲気となり、この名前とピッタリな感じがした。
このところ、スモーキーな中国緑茶が減ってくる傾向にあるが、このお茶もほとんどスモーキーな感じがしないお茶も登場してきている。
そうなると、「雲霧」というよりは、すっきりして「雨過天晴」といった感じになる。名前と距離が出てきて、ちょっと寂しい気もする。
美しい茶名とおいしいお茶の融合、マリアージュも、永遠ではないことを示している。
――この項おわり。