2014年6月1日
中国を年に何度か訪れるようになって、20年ほどの歳月が過ぎた。
このところ、少し重い気持ちをどこかに持ちながら、訪問することが多くなった。
今年でいえば、中国国際茶文化研究会の二年に一度の国際会議が、5月最終週に貴州省の遵義で行なわれることになっていた。
新茶を取りに行くスケジュールとの調整で、早く案内が欲しかったが来ないので、5月三週目には上海を入り口に、例年どおりに訪問する日程を決めてしまった。
いつもの会議は、国内外を合わせ、1000人を超える規模の会議である。今回は、国家レベルでの経費の引き締めもあり、規模を大幅に縮小しての開催にすることになった、と訪問先で聞いた。
今の政権になって、政府予算が絡むものは、縮小や削減が厳格に実行されている。
経済発展は、どの国も経験したいくつかの影響をもたらす。
その一つが「物価の上昇である」。
人件費を含む諸経費の上昇は、販売価格を押し上げる。この連載でも、お茶の価格上昇が顕著になりはじめたことを報告したのが、3年ほど前であったように記憶する。
お茶の末端での販売価格を決めるのは、茶木や畑の維持管理にかかる費用、大きなウエイトをしめる茶摘みの人件費、製茶に関わる費用、お茶を扱う流通の費用、その中には輸送費、流通人件費、事務所や店舗などを含む販売コスト、包装費、販売促進費、売れ残りリスクなどなど、たくさんの要素である。
数年前から目立った価格上昇のきっかけは、作り手の人件費であった気がする。
それに、中国の伝統的な事情が影響を与えた。
一般消費の他に、贈答用の消費が大きな割合を占めることである。
贈答用は、高い値段のお茶ほど好都合な部分がある。「高い」と一般に知られれば知られるほど、贈答用商品に向いている。 だから、原価に関係なく、質に関係なく、「高価格」というお茶が登場してくる。その「高価格化」は、生産者ばかりでなく、流通に関わる人たちにも、好景気として感じる。
その結果、益々価格は高騰していく。
一般消費者の希望とは、別のところで価格は上昇を続ける。売り上げも上がり、業績も上がり、まさに「好景気」となっていく。
それに加え、魅力的な包装を好む傾向が益々強くなり、過剰な包装にも拍車がかかった。お茶の価格は、またまた上昇する。
それが、現在の状況である。
贈答が大きな比重をしめていた高価格帯のお茶だけではなく、一般消費用のお茶も高くなった。
それに加え、農産品としてのお茶に「骨董」の世界が鮮明になるお茶が登場し、また価格高騰に大きな影響を与えている。
古くなればなるほど、高い値段のお茶があることだ。
プーアル茶がその牽引をしている。
古いプーアル茶の価格は、一度も下落したことがないという。「金」以上に安定上昇をしている商品ともいえる。 固まりのお茶一つが、古いものは何十万円も、何百万円もする。しかもここ10年くらいは、年間に10%以上上昇しているのではないかと思われる。リーマンショックなど、世界で悪い材料の経済変化があっても、値下がりした経験を持たない。
その結果、安かった「六堡茶」も「六安茶」も、ここ数年で、大雑把にいうと数十倍にも高騰した。
これは、農産物というよりは、「骨董品」の市場である。
杭州で、中国茶研究の権威と昼食をしながら、話題はこの話題になった。
大先輩の今のお茶に対する心配事は、「毎年、毎年、価格が高騰していくお茶の時代は、長くは続かない。いつ、行き詰まるのか。その時に、農家は、お茶屋さんは、一般消費者はどうなるのだろうか」と、真剣に語っていた。
茶葉は、葉のクラッシュを宿命的に持っている。そのために、製品で仕上がったところから、茶葉は動くたびに、クラッシュし、ロスが生じる。
そのクラッシュとは別で、いわゆる「経済的クラッシュ」である。
私たちは、すでにこのような経済のクラッシュは経験してきた。その経験からいっても、必ず「中国茶の価格クラッシュ」は来る。
しかしそのクラッシュは、誰も「いつ」訪れるか、特定をすることはできない。
ただその日は、必ず来る。
その予兆とならなければよいが、今年、「西湖龍井」の茶農家が、暗い表情で語っていた。
「政府の贈答品などの禁止、引き締めの影響で、高級ランクのお茶が売れていない」。
売れ残ったお茶は、農産品、しかも新茶が価値を持つお茶では、せいぜい一年間置かれて、廃棄される運命になる。
清明節のころ、ニュースは、「今年の龍井茶は、一斤(500g)8,000中国元(約15万円)をつけた」と、明るく報道していた。昨年より15%ほどの上昇である。
しかし、このお茶が、政府の政策によって大きく売れ残っている。価格を下げて売らなければならないのか。
これが、「クラッシュ」の予兆でなければよいが。