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コラム「続・鳴小小一碗茶」report

2016年9月1日

コスパのよいお茶

――「三杯香」と「雲南毛峰」

三杯香の茶葉の写真「おいしい中国茶を飲む」クラスは、サロンの最終年なので、毎月「思い出のお茶」を登場させている。
 8月に登場したお茶は、二つ。「三杯香」と「雲南毛峰」である。
 この二つのお茶に共通するのが、「コスト・パフォーマンス」が良いことである。

「三杯香」に出会ったのは、20年近く前である。上海の「叙友茶荘」が、まだ「黄山茶葉」といっていたころで、そこのショーケースの中で見つけた。
 叙友茶荘の茶葉の並べ方は、見本の茶葉を小さな白い皿に置き、それに茶名、産地、等級、価格などを書いたカードが一緒に並べられる。このやり方は、今も変わっていない。
 当然、緑茶が数多く並んでいる。高額なものでいえば、「西湖龍井」「洞庭碧螺春」などで、当時でも、50g3,000円(1斤30,000円)程度のものが普通で、もっと高いものを目にすることもあった。

 その中で、50g5元を切る値段のついた緑茶があった。約100円を切る値段である。
名前は、「三杯香」とついていた。聞いたことのない名前のお茶だった。産地は、浙江省泰順とあった。安すぎるので、間違いでは、と思って、ちょうど社長がいたので、確かめた。値段に間違えはない、という。
 叙友は、お茶の値段としては、産地に比べたら高い値段がついている。農家から仕入れ、小売をしているのだから当然であるが、当時から質においては、安心できるものが多かった。
 個人経営のお茶屋さんではなく、某国営企業の子会社であるので、働いている人も国家公務員であった。

 社長は、いつまでも笑ってくれない人であったが、いつからか仲良くなり、いろいろの美味しいお茶を教えてくれたり、手配をしてくれた。
 その社長が、私の値段の確認に対して、急に饒舌になって、弁舌をふるい始めた。内容は正確には忘れたが、熱っぽく語ってくれたこと、そして、結果、間違いなくおいしいお茶であったことは、覚えている。

 要するに、こんな感じだったと思う。
 よく気付いてくれた。このお茶は、値段はとても安い。歴史的な銘茶でもない、言ってみれば名もないお茶に近い。しかし、世の中には、値段は安いが、一生懸命おいしいお茶を作っている人たちもいる。そういう人たちのお茶も、私はがんばって売ってあげたいんだ。
 だから、それに目をとめてくれたことは、とても嬉しい。是非、買って、飲んでみてほしい。このお茶が、どれだけ値段のわりにおいしいお茶かは、すぐわかるはずだ。
 と、いったことが、記憶の中にある。

 疑心暗鬼で、少量を買い求め、持ち帰って飲んでみたところ、驚いた。
 当時の中国緑茶は、スモーキーな仕上げをしているものが多かった。日本茶の方が、我々には正直、馴染みやすかった。飲みやすかった。
 この「三杯香」は、そんな中国茶の中にあって、どこか日本茶に共通するものを感じるお茶であった。違和感なく飲めるお茶であった。
 値段も、安い。お土産にも最適である。
 それ以来、しばらくの間、毎年このお茶を買い続けた。また、その頃、皆さんで中国茶のツアーによく出かけていた。上海を基点にすることも多く、帰国前に上海に戻ってきて、皆さんと一緒に叙友茶荘に行って、「なにがお勧めですか?」という質問に、2〜3種類勧めるお茶を答えるとき、必ず「三杯香」が入っていたことも覚えている。

 その当時は、このお茶を他の土地でも見ることはなかったが、この頃では、杭州のお茶市場などの店舗でも、扱うところも多くなってきた。いろいろの価格帯のものもあり、等級がいろいろできていることもわかる。
 久しぶりに、「思い出のお茶」に登場させるために、買って、飲んでもらっている。
 とびきりのおいしさ、というよりは、なんとなく馴染めるおいしさのお茶である。相変わらず、コスパがよいお茶であることが、20年を経て、このお茶が存続している所以であろう。

 もう一つのお茶は、「雲南毛峰」。
 上海のお茶市場で、見つけたお茶だ。
 あまり、お茶市場には行かないので、それ以前から店頭に並んでいたのかもしれないが、見つけてから10年くらいたつだろうか。
 いつも春のお茶を入手するために中国に行く時期は、頼んであるお茶は取り置きしてもらっているので、それらのお茶が生産される時期ではなく、お茶が都会の茶舗まで到達する時期を見計らって行く。以前は、4月中旬くらいであったが、それでも早いので、ここのところは、5月中旬になっている。
 10年ほど前、その年は、何か別用があったと思うが、3月中旬に中国に行った時であった。時間があったので、その頃注目していたお茶「緑雪芽」の販売店が、上海のお茶市場の中にあった関係で、そこに顔を出そうとして、行った時である。

 上海まで新茶が届くには、まだ早い時期である。四川省のお茶が、やっと店頭に並び始めるくらいの時期で、その中に、大きな縦長の布袋の口が開かれ、お茶が見えているところに、ダンボールの切れ端に、茶名が書かれて、値段が書いて、刺してあった。
 茶名は「雲南毛峰」。値段は、1斤(500g)2〜3千円だった記憶がある。茶葉の揉捻が粗のために、100gでも十分な大きさになる。
 手に取った茶葉は、どこかに、柑橘系の香りを感じさせる、大葉種独特の香りがし、白毫も混じり、なかなかいい予感である。
 他に比べたら、とても安いお茶なので、試しに100gを買ってみた。

 帰って飲んでみて驚いた。心配していた苦味もあまりなく、ふつうにいれたら、十分な品格とおいしさ、そしてフローラルな感じがする。
 もっと買ってくればよかった、と思った。久しぶりのコスパのよいお茶であった。

 翌年、4月の下旬くらいに、いつもどおりお茶を買いに、中国へ行った。前年の市場に行ってみたが、影も形もない。記憶をたどって、同じお茶屋さんに行ってみたが、売っていない。聞いてもらったら、もうとうの昔に売り切れたそうだ。その年は、雲南毛峰がない一年を送った。

 翌年は、中国へ行くのが5月になるかもしれないので、上海に買っておいてもらうように、頼んでおいた。雲南省は、広西壮族自治区のお茶の次にくるくらい、早い茶摘みである。だから、雲南毛峰は、早ければ3月上旬には店頭に並ぶ。
 そして、龍井茶などのお茶が並ぶころには売り切れてしまう。

 それ以来、毎年欠かさず、飲み続けている。
 氷だしをして、ペリエで割って、シャンパン風に飲んでも、柑橘系の香りがして、なかなかおいしく飲むことができる。

 今年最後の年の企画、「思い出のお茶」にどうしても、この二つのお茶を皆さんと飲みたかった。おいしさは、続いていた。当然、コスパであった。

(写真:三杯香)

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