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コラム「続・鳴小小一碗茶」report

2016年10月1日

極上。普洱茶・散茶・生茶・新茶がうまい

――「ヴィンテージや値段、産地ではない」というものの…

雲南プーアール茶・冰島・生茶・600年茶樹・2016年新茶の茶葉の写真 しばらく前に、「雲南普洱茶」の生茶の散茶、その今年の新茶を飲んだ。
 普洱茶は、マニアックなファンが日本にも多いお茶だ。その人たちの語る言葉は、「気」の世界を語る精神性の世界であったり、古いお茶がすばらしい、と希少性や骨董的な価値を語るようなものが多い。
 伝統的に、香港を中心にした広東省、あるいは台湾などの普洱茶マニア、そして今は、中国全土で、日本のスケールをとてつもなく超えた金銭感覚で存在している。

 ともかく、私の趣味とはちょっと違うので、普洱茶の世界には、中国茶を本格的に始めたころから、なるべく距離を置くように、ずっとしてきた。
 でも、何十年も中国茶と付き合うと、自然に集まってくるお茶であり、しまうところがなくなるくらいになってしまっている。
 緑茶であれば、古くなると飲むこと、あるいは飲んでいただくことに不都合になるので、適当に残ったものは捨てていく。が、普洱茶は、古くなったからといって捨てるわけにもいかないので、溜まる一方である。
 しかも、保管するするには、普洱茶の「餅茶」の形状に、いささか参ってしまっている。円盤状がいかに面積、体積をとることか。いつも悩まされている。

 正確ではないかもしれないが、普洱茶のブームを何度か見たり、感じとって来た。
 私は実体験することがなかったが、1980年代に起きた、台湾での普洱茶ブーム。台湾がバブルにわいた時期であった。
 普洱茶は、香港を中心にし、広東省の一部で、常飲される以外に、飲まれることはほぼなかった。それ以外の土地では、知っていたり、飲んでいるのは、よほどのマニアだけであった。中国でも、その地域以外は、お茶屋さんでも、買うどころか、売られてもいなかった。

 台湾のお茶人は、そのバブルの頃、中国にあるヴィンテージものを中心に、大陸から大量に買い付けた。まだ、中国からの荷物の移動が、自由度がない頃であった。返還前の香港、シンガポール、タイ、マレーシアなどを経由して、台湾に多くの量が移動した。

 そして、次に普洱茶がブームになったのは、中国大陸で広く起こった。
 10年ほど前の「健康ブーム」としての、普洱茶のブームであった。
 中国は、古くから食の健康ブームがいつもある国かもしれない。常に「食と健康」は、彼らの日常的な話題であり、生活に直結していた。「衣食同源」として説明されるが、それよりも、もっともっと身近な感じがする。
 でも、茶の領域で、「健康」を看板、うたい文句にあげて、デパートなどでも特設のコーナーが出来て販売され、人が群がって買うような動きがあったのは、15年ほど前、「苦丁茶」として「富丁茶」がブームになった時である。
 広東省が原産で、古くから海南島で常飲されていた。「一葉茶」といわれるくらい、葉一つで苦く出るお茶。雲南省や貴州省の生産のものも、見たことがあった。これらは、茶の木ではないのに、銘茶のリストに名を連ねていた。
 それに加え、この健康ブームの時には、葉の小さな種類の「苦丁茶」も登場した。この時に売られていたものは、この葉の小さな種類の方が多かった。それらは、四川省、安徽省、浙江省などの産地であった。

 しかし、健康ブームの常で、数年で「苦丁茶」ブームは去り、そのあとすぐに、「普洱茶」が「健康によい」として、売られるようになった。
 今まで、香港や広東省の一部以外では、お茶屋さんでも見ることはほぼなかった普洱茶が、全国で売られ、知られるようになった。
 デパートでの販売はもちろん、それまで店頭になかったお茶屋さんにも並ぶようになった。また、各地に普洱茶専門店ができたのも、この頃である。

 雲南省での生産は、爆発的に増え、価格も高騰した。
 しかし、このブームも数年で去り、専門店の数は減り、お茶屋さんの店頭での扱いは小さくなっていった。多くの中国の人が、それまで知らなかった普洱茶の存在を、知ることになったのは、この時であった。

 そして、5、6年前。また普洱茶が息を吹き返した。
 豊かになった層が増えた時、注目されたのが普洱茶であった。国内瀑買いの動きである。
 普洱茶の骨董品的な魅力に、中国の人たちは動いた。ヴィンテージものを中心に、その高価なものを買うことに、消費の欲求、ある場合は投機の対象として、動いた。
 普洱茶は、バブルがはじけようが、リーマンショックなどの経済ショックがあろうが、現在に至るまで、未だかって、価格が下がったことのない商品と言われる。どうも、事実らしい。
 ところが、多くのヴィンテージものは、台湾にわたっていた。中国国内には少ない。そこで偽ものと思われるものが、出廻ったらしく、台湾から買い戻されたものが、「本もの」という意味を込めて、正札に、「台湾回帰」と書かれたものを見たのも、この時期である。

 しかし、数年でそれも沈静化した。そこで普洱茶ブームもついに終わりかと思った時、今度は、生産・販売の方が、消費者に仕掛けた。それが、ここ2年ほどで顕著になっている、「生産地」「樹木の古さ」を看板にした販売である。
 雲南省南部の生産地・西双版納(シーサンパンナ)にある「六大茶山」といわれる茶区の個々の山の名を前面にうたい、たとえば、「南糯山・300年茶樹・生茶・餅茶」といった訴えかけで、売ることが目立ちはじめた。
 それと同時に、古い茶樹がたくさんある「冰島」といった地名も、一般的に出てくるようになった。
 それが、いったん沈静化したと思った普洱茶の動きを、また少し活発にしている。それが、今の様子である。

 そんな中で、今春、上海の普洱茶のマニアの人から、おいしいので飲んでみて、と普洱茶をもらった。「冰島」の「600年の茶樹」を木ごと買って、昨年から製茶をしてもらっている。今年、2年目の生茶の新茶だという。
 たいてい、この手のお茶は、話ほどおいしくないのが常だ。だが、飲んでみて驚いた。極端に薄めにいれてみた。
 昔から、普洱茶は、新茶もおいしい、と声高に言ってはいたが、今回、また実証された。
 薄めにいれているので、味はかすかである。しかし、品よく清らかである。普洱茶が清らか、などとは信じてもらえないかもしれないが、霧が晴れていくような清らかさがある。
 残り香は、柑橘系の香りをかすかに残し、長く尾を引くように口から喉にかけて残っていく。
 お茶は、数千年前から飲まれて来た。煮出すやり方では、このような感じは生まれないかもしれないが、茶木の原産地の一角である雲南で、もし、その時代に単純にお湯で抽出して飲んでいた人がいたとすれば、こんな感じで飲んだのでは、と思った。
 その時に、お茶の魅力を見つけたのでは、と想像を膨らませるお茶である。
 普洱茶の生茶の新茶は、おいしい。このお茶は、以前から言い続けたことに、また勇気を与えてくれた。

(写真:雲南普洱茶・冰島・生茶・600年茶樹・2016年新茶)

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